工学系高等教育機関での
      技術者の倫理教育に関する提案
委員会名  基礎工学研究連絡委員会
報告年月日  平成9年6月20日
議決された会議  第883回運営審議会
番号 連絡16−55

作成の背景 

 多くの学問、技術分野で、古くからそれぞれの分野に特有の条件を考慮して倫理が議論されてきている。倫理綱領を定めている学協会も多い。しかしながら、我が国の技術者の養成段階で技術者倫理について十分な教育がされてきたとはいえない。個々の技術者に倫理に対する配慮を求めようとするとき、教育課程に倫理を含めることが最も適しているといえよう。
 米国では、工学系大学課程の基準を定めている The Accreditation Board for Engineering Techno1ogy の規定の中で、カリキュラムに技術者のための倫理教育を組み入れることが求められており、実際に大学学部段階で技術者の倫理についての教育が行われている。
 自然に手を加え、あるいは人工的に物を作る専門職能一集団としての技術者の倫理について、「十分な情報と熟考を基に、他からの影響を排して独自に判断すること」の重要性が教えられている。

現状及び問題点

 これに対してわが国の場合、先人の業績を振り返り、技術者としての使命感を与える技術史の教育は行われてきたものの、技術者という職能集団の構成員として、大きな社会変動のうねりの中で、いかにして社会的機能を担っていくかという教育は十分には行われてこなかった。
 技術者のための倫理教育とは、技術の専門家としての判断を求められたときに、選択をする基準を個々の技術者が独自に判断することができる能力を付けさせることを目的とする教育である。一般に判断の基準をあらかじめ与えることは困難であり、抽象的な内容の教育より、事例教育を通して教青を行うのが適当であろう。
 その際、技術者としての社会的機能を明確に認識し、社会の公正と発展に資する判断を下すべきことを示す必要がある。

改善策・提言等

本委員会は以下の3点を提言する。

(1) 大学の学部段階において技術者のための倫理教育を行う。
(2) 倫理教育を実施するに当たって特定の価値観を教え込むことはよくない。主として事例教育の方法により、技術者の社会的機能を踏まえて、他からの強制によらず、自分自身の基準に基づいて倫理面から見て適切な判断を下せる素養を身につけることを目指すのがよい。
(3) 科学技術のグローバル化、急速な発展に伴い、これまでの基準で定められていた倫理綱領が社会の状況に合わなくなっているものもある。新しい時代の要請にあった倫理綱領の制定が急務である。

 本報告書を踏まえて、今後、技術者の倫理問題について、さらに幅広く検討を進める必要がある。倫理のあり方、教育の方法、その担当者の育成方法などについての方向付けを行う検討の場を設けることを合わせて提言する。

報告書原文   全文PDFファイル(494k)

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倫理教育が議論される背景、 米国の倫理教育、 日本の倫理教育、 技術者倫理教育の提案モデル
関連研究機関・学協会
土木学会、日本技術士会




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