生理学の動向と展望 
  「生命への統合」
委員会名  生理学研究連絡委員会
報告年月日  平成9年6月20日
議決された会議  第883回運営審議会
番号 連絡16−51

作成の背景 

 生理学Physiologyは生体の機能を研究する学問であり、わけても、これまで未知であった多くの生体内分子が分子生物学の発展により次々と同定されている現在、それらの分子群の生体機能における役割と意義を明らかにし、生命へと統合することは生理学の最重要課題となっている。
 本報告書は、大きな飛躍と展開を見せている生命科学全研究分野の中心にあって「生命への統合」の役割を担っている生理学の位置づけを行うとともに、生理学研究と生理学教育の現状及び問題点を探究して生理学の将来の発展への指針を探ろうとするものである。

現状及び問題点改善策・提言等

研究と教育という観点から現状の課題と提言を行う。

(1) 生理学研究の現状と提言
 日本の生理学研究は、個々の分野において世界的な業績を上げ、国際的に認められて世界の指導的地位に立ちつつある。一方、分子生物学的手法などを用いた研究の進歩が著しく、それらは生命科学研究全般に大きな革新をもたらした。
 生理学研究においても、それらの方法を用いて得られる成果を統合することによって、「機能」の解析をより実体的かつダイナミックに行いうるという新しい状況が生み出されている。
 それゆえ今後の生理学研究は、分子生物学の発展の成果を細胞レベル、組織レベル、器官レベルのみならず個体レベルでのシステム機能として組み上げ、生命へと統合して行く必要がある。
 更に、臨床医学における遺伝子治療、生体分子操作、人工臓器、臓器移植、脳死判定など、科学の発展によって生じた医学、生命科学上の問題、人口増加に伴う環境上の問題、長寿化社会に伴う問題など、現在及び未来における諸問題の解決に科学的基盤を与える上でも、生理学研究が果たすべき役割は極めて大である。
 今後、生理学研究を発展させるために、戦略性の高い「統合生物学」的研究を展開して行くことが強く求められる。

(2) 生理学教育の現状と展望
 生理学は、全ての生命科学の基礎を与えるばかりではなく、人類の生活への指針をも与える重要な学問である。
 しかしながらわが国では現在、生理学研究の重要性と生理学の社会的役割の重要性に見合う程には若い優秀な人材の参入が得られていない。
 この問題の解決の第一歩として、医系大学及び理系大学における生理学教育の内容を、現在めざましく展開されている分子生物学的研究の成果を基礎に、それらを「生体機能」にまでダイナミックに組み上げ、若者の知的好奇心を刺激するような統合生物学的内容に変えていくことが必要であろう。
 医系・理系大学のみならず、文系大学においても、初等・中等・高等学校においても、生命科学としての生理学教育と人間科学としての生理学教育が取り入れられる必要がある。
 教育の裾野を広げることは生理学研究に参入する人材を確保していくためにも重要と思われる。

報告書原文   全文PDFファイル(1,236k)

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生理学、 生理学の主要な分野とその説明、 日本学術会議と生理学と国際協力、 生理学と分子生物学、 生理学とNMRおよびX線回折法、 生理学と光学測定法および画像解析法、 生理学の各分野における戦略研究、 生理学と重点研究課題
関連研究機関・学協会
日本生理学会、日本神経科学会、日本臨床生理学会、岡崎国立共同研究機構・生理学研究所




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