学術団体の支援について(要望)


平成9年5月28日

第125回総会

 

 学術が我が国をはじめ広く人類社会の発展に対して極めて重要な役割を果たすものとの認識に基づき,近年,学術の飛躍的推進のために研究基盤の整備を図ろうとする種々の施策が講じられている。しかしながら,学術研究に携わる科学者の活動の基盤となるべき学術団体への配慮がはなはだ不十分な現状にあることは,我が国における学術振興政策上見逃すことのできない問題点といえる。

 学術団体は,もともと,その所属会員たる専門研究者により会員相互の研究交流・親睦,自己啓発,社会的地位の向上等を目指して,会員個人とその集合体である団体の自主性・自発性に基づいて組織されたものである。しかしながら,今や全世界的規模での相互依存を深めながら発展しつつある現代社会の中にあって,学術団体には,ますます広範囲な領域にわたって重要な公共的機能を担うことが期待されるようになり,学術団体の側でもそのような社会的要請に対して一層積極的な対応を意図するようになってきた。

 今日,学術団体に期待されるべき役割としては,まず第一に,「専門分野の学術の進歩・発展へ貢献する機能」の発揮が挙げられ,そのために,学術団体には以下のような活動が必要とされている。

 1. 個人及び団体における学術研究活動の推進

 2. 学術研究成果の評価と発表(研究発表集会の開催,学術誌の編集・発行等)

 3. 専門分野の学術情報の収集と発信

 4. 学術研究活動の国際交流・協力(国際研究集会の開催・参加等)

 5. 顕彰事業等による学術振興への貢献

 次いで,それに続く第二の役割には,「国の学術基盤の強化及び社会発展に貢献する機能」の発揮が挙げられ,すでに,学術団体では以下のような活動が展開されている。

 1. 学術研究成果の学術文化政策への反映

 2. 国内外における社会・経済発展への貢献

 3. 各種教育活動(青少年教育,生涯教育等)の推進

 4. 専門別教育基準の作成及び評価

 ところが,これらの機能を果たしつつある学術団体では,その活動の負担がそれぞれ固有の財政能力を超えるという運営上極めて困難な事態に直面している。とりわけ,我が国の国際的地位の向上と研究規模の国際的拡大にともない,国際学術交流への要請がますます強まっているが,それに対応することは,もはや外部からの支援なしでは極めて困難な状況となっている。このことは,第15期日本学術会議が平成6年1月に行った調査報告『我が国における学術団体の現状』において,全体の88%の学術団体が「外部からの支援が必要である」としていることからも明らかである。

 以上のように,我が国の学術団体を取り巻く環境は極めて厳しい状態にある。21世紀へ向けて我が国の学術研究の飛躍的な発展を図るためには,学術団体を多方面から支援して,学術の研究活動・情報発信の基地としての環境を整備し,その活動を活性化することが緊要である。したがって,日本学術会議は,学術団体に対して以下の支援を行うことを強く要望する。

なお,このような学術団体への支援を要望するにあたって,各学術団体自体においてもそれぞれの性格,目的に相応しい自制と努力が行われるべきことは言うまでもない。

 

T.学術団体の活動への公的支援

 学術団体の活動に対する国からの直接的助成は,現在,文部省科学研究費補助金における「研究成果公開促進費」によるもののみである。その助成金額は,科学研究費補助金の順調な伸びにともない増加を示してはいるものの科学研究費補助金総額の約3%であって,学術団体の財政状態の現状に対して,その支援額とするには必ずしも十分であるとはいえない。したがって,今後,このような学術団体の活動に対する補助金もしくは助成金の総額を特段に増額するとともに,助成対象事業を従来の「研究成果公開促進」に限定するだけでなく,さらに大幅に拡大することが強く要望される。

 以下では,学術団体の強化・活性化のための公的支援のうち,とくに緊急に要望される個別的課題を具体的に述べることとする。

(1)学術研究成果刊行事業に対する助成の拡充

 学術研究成果の刊行は学術団体の最も主要な事業であり,しかも財政負担の最大の部門であって,全学術団体の60%が,会誌,論文誌,学術図書等の発行を主とする事業への支援を期待している。現在,これらに対する公的助成としては科学研究費補助金における「研究成果公開促進費」があるとはいえ,その対象範囲は極めて狭く限定されている。この事業に対する支援への期待が極めて大きいことに配慮し,補助金の対象範囲を大幅に拡大するとともに,その総額の増額により「研究成果公開」に対する助成を特段に拡充することが必要である。

(2)国際的活動に対する支援の強化

 学術を通じての国際貢献への要請の高まりに対応するために,学術団体は種々の国際的活動を活発に展開しているが,多くの困難な課題を抱え厳しい状況にある。とくに下記の諸課題に対して財政的支援の強化や活動環境の整備を緊急に図ることを要望する。

 1. 国際学術研究集会に対する助成

 学術団体が開催する国際会議,シンポジウム等における必要経費に対する直接的財政援助を拡充するとともに,適当な規模の国際会議場の増設,適正な価格の宿泊施設等の整備が必要である。

 2. 国際共同事業の推進のための支援

 学術研究活動の国際的広がりの中で,学術団体を中心とする国際共同研究,例えば,国際標準規格に係わる共同調査・試験等の国際共同事業を展開する事例が増加しつつある。このような国際共同事業は,学術による国際貢献に資するという観点から,さらに強力に推進する必要があるが,そのためには,とくに事業運営の中核である学術団体に対する支援の強化が要望される。

 3. 国際学術団体への加盟に係わる助成

 学術団体が,日本を代表して国際学術団体に加盟している場合に,その加盟分担金や関連する国際会議への参加旅費等に対する助成の拡充が必要である。

 4. 学術情報の発展途上国への提供・援助に対する助成

 学術団体が,その学術定期刊行物,学術図書等を発展途上国の大学,図書館,学術団体等へ寄贈する事業に対して,その助成を図ることが必要である。さらに,発展途上国からの会員の学会費,論文投稿料等を減免する経費を補助することが要望される。

(3)学術情報の収集・発信機能の強化に対する助成

 学術団体に対して,関連分野の学術情報を収集・評価・選別し,それを会員並びに国内外の諸機関に発信する拠点として機能することを求める声が急速に高まっている。学術団体は,このニーズに応えるため,事務のOA化,データベースの作成・管理,インターネットをはじめとする情報ネットワークの構築等,事務局の情報化への対応が迫られ,その結果,財政的にも極めて厳しい状況に置かれるようになった。このような状勢に配慮して,今後,下記の課題に対する助成が必要である。

 1. 情報化投資に対する助成

 2. 関連データベースの整備に対する助成

(4)青少年・社会人に対する教育・啓発活動に対する助成の拡充

 学術団体は,その専門分野の学術に対する社会的関心や理解を広く得るために,青少年や一般社会人を対象とする公開講演会等の教育・啓発活動を行い,生涯教育の一環としての重要な役割も果たしている。これら一般国民を対象とした各種の教育・啓発活動を一層充実・強化するために,その助成の拡充が必要である。

 

U.学術団体の活動を円滑化・活性化するための制度等の整備

 学術団体の活動に係わる税制等の制度を整備することは,その活動の円滑化・活性化を促進し,学術団体を効果的に支援することとなる。とくに下記の課題は緊急に整備されることが要望される。

 

(1)学術団体の非営利事業収入の非課税化

 学術団体は,出版事業,講演・講習会等を通じて,研究成果の公開,一般国民の啓発等の公益事業を行っている。しかし,これらの多くは税法上で収益事業と認定され,法人税課税の対象となっている。これには適用除外規定が設けられているが,その範囲は狭く,またその解釈は必ずしも統一されておらず,同一事業に対して異なる認定がなされた事例もある。学術団体は学術的貢献を目的として設立され活動しているものであることから,学術団体がその定款に則って行う非営利の事業は,原則として公益事業と認定し非課税とすることが要望される。

(2)学術団体への寄付の非課税化

 現行制度では,特定公益増進法人となっていない学術団体への寄付については,指定寄付金の認可を受けていない限り,寄付者の非課税扱いは認められず,寄付金額が課税所得から控除されない。本来,学術団体は学術的貢献を目的とした公益活動を行うものであることから,学術団体への個人の寄付については,課税所得から寄付金の全額が控除されるよう要望する。さらに,企業から学術団体への寄付についても,それを損金に算入できるよう特別措置を講ずることを要望する。このような学術団体への寄付の非課税化措置により,学術団体の支援を目的とする寄付を行いやすい環境が醸成されるものと考えられる。

(3)学術刊行物に対する郵便料金の低廉化

 現在,定期学術刊行物に対しては,第4種郵便物としての優遇措置がとられているが,重量や最低発行部数に対する制限等が学術団体による学術刊行物の実状とは必ずしも合わないため,優遇措置の本旨が生かされていない状況にある。そこで,学術刊行物の郵送料負担が学術団体の財政をとみに圧迫している現況に配慮し,第4種郵便料金体系を見直すことによって,学術団体に対する郵便料金の低廉化措置を緊急に講ずることが必要である。

 

添付資料

・ 「調査報告 我が国における学術団体の現状」(平成6年1月26日)
     日本学術会議第4常置委員会

・ 「第5部報告 学術情報発信基地=学術団体の強化・支援に向けて」
     (平成8年5月27日)     日本学術会議第5部

 

(本信送付先)

内閣総理大臣

(本信写送付先)

内閣官房長官
法務大臣
大蔵大臣
文部大臣
厚生大臣
農林水産大臣
通商産業大臣
運輸大臣
郵政大臣
建設大臣
科学技術庁長官