計算機科学研究の推進について(勧告)


                   平成9年5月28日

                  第125回総会

 

 計算機(コンピュータ)とネットワークを中心にした情報技術の急速な発達によって,地球全体がしだいに一つに統合される方向に動きだしている。こうした中で,主要先進国は,現代社会がコンピュータを軸にした“高度情報社会”であるという認識において一致し,この新しい変化への対応を急いでいるが,健全な高度情報社会を築き上げるためには,情報にかかわる基盤的な学問分野である計算機科学(コンピュータサイエンス)の研究を幅広い観点から推進することが極めて重要である。計算機科学は計算機のハードウェア・ソフトウェアに関する基礎を扱うとともに,計算機を用いて情報を蓄積し,適切に処理する方法を追求する学問であり,そこで確立された情報技術が様々な分野の研究・活動の基礎となるからである。

 今日,計算機科学は情報を対象とした基礎的な学問分野として発展し,伝統的な学問分野との横断的・学際的な研究によって新たな学問の創生に向けて成熟しつつあり,人文・社会科学から自然科学にわたるあらゆる学問分野の幅広い学術研究を支援する基礎的学問としての役割が大きくなっている。このような計算機科学分野には,新しい道具を利用するための方法論や新しい情報処理技術の確立などの研究課題が急速に増大していることからも,計算機科学の研究を推進することは急務である。

 歴史的に振り返ると,我が国では,基礎的な計算機科学の分野でも国際的に評価される多くの成果を上げてきており,現在も,技術力はかなり高い水準にあって,国際的に指導的立場にある研究者も少なくない。しかしながら,研究推進に必要な研究者の数,研究費等が著しく少なく,研究施設等にも問題があることなどから,日本の経済力の大きさ,産業規模の大きさに比較すると,まだ国の内外の期待にこたえるだけの十分な貢献を果たしているとは言えない状況にある。欧米のみならず,アジア諸国における情報技術分野の教育・研究及び産業の育成にかける努力には目を見張るものがあり, 我が国も早急に体制を整えなければ,国力にふさわしい貢献をすることはできない。

 今後の研究を支えていく体制を考えるとき,我が国には計算機科学分野の国立の研究所が存在しないために,研究の中核的組織が欠如していることに危惧を抱かざるをえない。基盤的な計算機科学の研究はもちろんのこと,新たな問題を科学的・技術的にとらえてこれを積極的に解決していく総合的な計算機科学の各分野の研究,学際的な研究体制による先端的な計算機科学の研究を推進する研究所の設置は将来の科学・技術の発展を促し,研究の空洞化を防ぐためにも極めて重要である。これらの分野において,表層的ではなく確固とした問題把握を行い,これを解決することのできる有為な人材を育成するためにも,計算機科学の中核的組織としての大規模な研究所が必要である。基盤的な計算機科学は,カリキュラムの整備された大学教育と大学院における研究を通じて伝承されるべきであるが,我が国においては,その体制が十分であるとは言い難い面もある。一つには,計算機科学の学問の体系を担う中核的な組織がないことと,情報を扱う分野の拡大に目を奪われて,基盤を確立する体制がとれていないという現実がある。また,我が国の大学においては,計算機科学の重要なアプローチの一つである“設計”を追究する体制がとりにくいという現実も無視できない。計算機科学の成果を社会に活かすためには,長期にわたって継続的に研究を推進する必要があり,大学における教育・研究では実行することの難しい実用化に向けた研究を行うための研究所が必要である。    

 諸外国の例をみても,計算機科学の研究に対する求心力のある国立の研究機関の役割として,計算機科学の中核を担い,研究成果を活用するための発展的な長期的研究の実施ということがある。我が国の計算機科学を健全に伝承するためにも,このような役割を担う国の研究所の設置が急がれる。

 成熟した高度情報社会の到来を見通し,旧来の社会からの円滑な移行を達成するためにも,中核となる研究所を設置し,計算機科学の研究を推進すべきである。

                            

(本信送付先)

内閣総理大臣                  

     

(本信写送付先)

内閣官房長官        公正取引委員会委員長
法務大臣           公害等調整委員会委員長
外務大臣
大蔵大臣
文部大臣
厚生大臣
農林水産大臣
通商産業大臣
運輸大臣
郵政大臣
労働大臣
建設大臣
自治大臣
国家公安委員会委員長
宮内庁長官
総務庁長官
北海道開発庁長官
防衛庁長官
経済企画庁長官
科学技術庁長官
環境庁長官
沖縄開発庁長官
国土庁長官
内閣法制局長官
人事院総裁


                              

[説 明]

 

       国立計算機科学高等研究所設立構想          

 

1.国立計算機科学高等研究所設立の趣旨  

 

 現代社会においては,“情報”に係わる知識・技術は人間の知的活動のために欠くことのできないものとなっている。現在の自然科学・社会科学・人文科学のどの分野においても“情報”を対象として,あるいは手段として研究が進められるようになってきており,それぞれの分野で情報関連の副分野として扱われることも多くなってきている。    

 我が国における科学・技術の現状を踏まえて平成7年11月15日に公布された科学技術基本法にも研究開発に係わる情報化の促進がうたわれ(第13条),科学・技術に関する情報処理の高度化, 科学技術に関するデータベースの充実,研究開発機関等の間の情報ネットワークの構築等の研究開発に係わる情報化の促進のための施策が求められている。このような科学・技術の情報化を支えるためには,なによりもまず,情報を扱う学問分野を健全に発展させ,成熟させることが肝要である。 

 情報を対象とする学問は計算機(コンピュータ)の出現以前にも存在したが,社会においても,また,あらゆる学問分野においても重要な役割を果たすことになったのは,情報を蓄積し,適切に処理する科学・技術の発展によるところがきわめて大きい。このような科学・技術を支えてきた基盤的な学問分野としての計算機科学(コンピュータサイエンス)には,伝統的なほかの学問に見られない重要な概念や規範のあることもあきらかになってきた。今日,計算機科学は広範な科学研究における情報を対象とした基盤的な学問分野として発展し,伝統的な学問分野との横断的・学際的な研究によってあらたな学問の創生に向けて成熟しつつある。

 国立計算機科学高等研究所の構想は,科学・技術の情報化を担う中核的な学問である計算機科学の研究を推進し,学問研究の情報化を確立するための国立研究機関を設立しようとするものである。

 

 

2.計算機科学研究の背景と高等研究所設立の必要性

 

 計算機による情報処理は現代社会において欠くことのできないものとなっており,どの学問分野の研究においてもきわめて重要な役割を果たしている。科学分野の研究にあっては,伝統的な理論と実験に加えて第三のパラダイムとしての計算手法として寄与してきており,工学分野では設計技術に計算機による処理が不可欠なものとなっている。                     

 人間の知的活動において計算機による情報処理が重要な地位を占め,本質的なまでに位置づけられるようになったのは,大量の情報を利用したいという願望,高度に処理された情報を手にしたいという知的欲求によるところが大きい。実際,計算機が50年前に出現して以来,計算機のハードウェア・ソフトウェアに係わる学問と技術による情報の蓄積と処理の実現は人間の知力の増幅機として結実し,われわれの社会に18世紀の産業革命にも匹敵する“情報革命”をもたらしつつある。                

 計算機科学はこのような情報革命を支える学問として着実に成果をあげてきた。計算機科学における主要なテーマは,アルゴリズム(算法)的考え方,情報の表現法,およびそれらを具現する計算システムに集約される。この学問分野は計算機“科学”と呼ばれるが,そこには理論と抽象化に基づく科学的手法と,抽象化と設計を規範とする工学的手法の融合が見られ,それが学問分野形成のひとつの特徴にもなっている。計算機科学のどの研究分野にも,科学的原理を追究して方法論を確立するという科学的側面と,それに基づいて問題解決のための計算システムを設計し実現するという工学的側面が連係した体系が存在する。

 計算機科学の学問としての歴史は伝統的な学問分野に比べてきわめて短いが,上にあげたような他に類を見ない学問の特質から,その間の成果は社会および学問分野に大きな影響を与えており,情報革命を支える中核的学問としていっそう重要性を増してきている。こうしたなかで,人類の知的資産を継承しつつ知力増強を目的とする情報革命を成功に導くためには,これまでに確立された基盤的な計算機科学の各分野を成熟させるとともに,あらたな知的概念を総合的に融合する研究を推進することが肝要である。我が国においては,これまで,計算機科学分野の国立の研究所が存在しないために,研究の中核的組織がなく,今後の研究を支えてゆく体制が不充分といわざるを得ない。いまや,あらゆる学問分野の研究が“情報抜き”では考えられないということからも,また,科学研究の空洞化を防ぎ,将来の学問の発展を促すためにも,計算機科学の研究を推進する高等研究所の設置は急務であるといえる。                        

 

● 計算機科学の中核的組織の必要性

 

 基盤的な計算機科学は大学教育と大学院における研究を通じて伝承されるべきであるが,我が国においては,その体制が充分であるとはいいがたい面がある。すなわち,計算機科学の学問の体系を担う中核的な組織がないことと,情報を扱う分野の拡大に追われて,基盤を確立する体制がとれていないという現実である。また,我が国の大学においては,計算機科学の重要なアプローチのひとつである“設計”を追究する体制がとりにくいという現実も無視できない。計算機科学の成果を社会に活かすためには,長期にわたって継続的に研究を推進する必要があり,大学における教育・研究では実行することの難しい実用化に向けた研究を行うための国立研究所が必要である。諸外国の例をみても,計算機科学の研究に対する求心力のある研究機関の役割として,基盤的な計算機科学の研究成果を活用するための長期的研究の実施ということがある。我が国の計算機科学を健全に伝承するためにも,このような役割を担う国立の研究所の設置が急がれる。        

 

● 総合的な研究を推進する機関の必要性

 

 情報革命を支えるための計算機科学を確立するには,現在の計算機科学を伝承するだけではなく,基盤的分野に横断的な課題を扱う総合的な研究を効果的に推進する体制が必要である。基盤的な計算機科学の上に立ち,横断的視野をもって課題を追究するには,計算機科学のさらなる成熟とそれを総合的に捉えるという基盤分野と総合分野の緊密な連係がきわめて重要であり,これを確立する組織として国立の研究所の設置が求められる。        

 

● 先端的な研究を推進する機関の必要性

 

 将来の科学の発展のためには,学問分野の枠に閉じこもることなく,知的冒険の要素を加えた先端的な学問を追究する体制をとる必要がある。次世代の情報革命を支える計算機科学は,こうしたなかで成熟することができる。これまでもそうであったように,計算機科学と他の学問分野との接点にあらたな発展が生まれるのであり,相互に学問的刺激を得るための研究を推進する国立の研究所が切望される。                    

 

● 産学研究者の交流推進機関の必要性

 

 計算機科学はその応用を通じて人間社会に貢献するが,計算機技術は産業と密接に関連している。学問上の成果を産業に移転し,また,社会や産業からの工学的問題を計算機科学の課題として捉えるためには産学の連携がきわめて重要であり,両者の人的交流を推進することのできる研究組織が必要である。国立の研究所の設置によって,成熟した社会における知的活動のための基盤が確立され,これを通じて情報社会を支えることが可能となる。                             

 

 

3.計算機科学の研究分野

 

 計算機科学が学問としての基礎を築いてから50年ほどであるが,現在の研究分野は多岐にわたっている。すでに確立された分野もあるが,そこにもなお多くの課題が残されている。また, それらを基礎として,新しい視点,社会的な要請などから生まれてきた分野もある。さらには,他の学問分野との刺激によって, あらたな学問分野としての発展の芽となる研究分野も考えられる。これらは基盤・総合・先端のキーワードを冠した計算機科学として捉えることができる。計算機科学はつねに発展し続けており,研究分野は研究の進展とともに変わってゆくものである。   

 以下に示すものは計算機科学分野の現在の姿である。        

                                 

● 基盤計算機科学

 

 計算機科学として現在までに確立された基盤計算機科学として以下の11分野があげられる。これらは,文部省の調査研究に基づく「大学等における情報処理教育のための調査研究報告書」(平成3年3月)および米国計算機学会による報告書Computing as a Discipline by P.J.Denning, Comm. ACM 32,pp.9-23, 1989 をもとにして,現状にあわせて研究分野を記したものである。米国 National Research Councilによる広範な調査報告に基づく提案書Computing the Future (J. Hartmanis and H. Lin eds., 1992)でも,これらを中核的な計算機科学として定義している。

                                 

 - 情報学基礎( 情報と情報構造)

 - 算法設計( アルゴリズムとデータ構造)

 - 計算モデル( プログラミング言語)

 - 計算機構( アーキテクチャ)

 - 計算情報処理( 数値的・記号的計算)

 - ソフトウェア機構( オペレーティングシステム)

 - ソフトウェア設計( ソフトウェア方法論・ソフトウェア工学)    

 - 情報ベース( データベース・情報検索)

 - 知識情報処理( 人工知能・ロボティクス)

 - 多元情報処理( 人間- 計算機インタラクション)

 - 情報ネットワーク( データ通信と情報ネットワーク)

 

 基盤計算機科学のどの分野にも,理論・抽象化・設計の三つの学問的手法が見いだされ,自然科学と工学が相互に刺激を与えつつ発展してきている。情報を対象とする自然科学としてのアプローチでは,情報のありかたを観察したうえで,それを操作できる対象として抽象化し,モデルを設定する。また,工学的アプローチでは,モデル化を行うことと,それに基づく情報処理のシステムの設計が主題となる。                     

                                 

 理論的手法の源泉は数学に見いだされるものであり,定義・定理・証明,および結果の解釈からなっていて,これらが繰り返されて,首尾一貫した理論を構築する。抽象化の概念は実験科学に見られるもので,仮説の設定・モデルの構築・実験,および結果の解析を繰り返し行って,現象を解明する。また,設計は工学の基礎であり,要求記述・仕様記述・システム設計,およびシステムのテストを繰り返して問題解決のためのシステムを構築する。このような学問的手法が自然科学と工学の融合をもたらし,基盤計算機科学の体系を形作っている。                

 

● 総合計算機科学

 

 計算機科学は基盤計算機科学に見られるように,自然科学と工学の学問の壁を越えた融合を特徴として発展してきた。一方で,計算機科学においてはつねに,それまでに確立された分野やその学問的アプローチとは直交した方向で,あらたな概念に基づいて研究が進められてきている。現在の基盤計算機科学の各分野も,ある時期にはそれまでに成熟していた分野の上に構築されたものである。今後,基盤的な計算機科学の分野として扱われると期待され,また,学問としての計算機科学の体系に影響を与えると考えられる研究課題は山積している。これらは,現在の基盤計算機科学の各分野にまたがる基本的問題を横断的に扱う総合計算機科学としての研究分野であり,                 

                                 

 - 大規模情報処理( 大規模情報資源と情報意味論)

 - 大規模分散並列計算

 - 巨大ソフトウェアシステム

 - 大規模非均質情報処理

 - 高信頼計算システム

 - 実世界計算システム

 

などがある。総合計算機科学の分野は基盤計算機科学の成熟とともに,その成果の上に立って,情報革命を担う計算機科学のあらたな発展を目指すものである。このような総合計算機科学の成果は基盤計算機科学にあらたな視点を与え,計算機科学のさらなる発展を促すものといえる。

 

● 先端計算機科学

 

 伝統的な学問の各分野から計算機科学分野を見ると,計算機科学はそれぞれの分野に情報処理技術や計算的手法を提供しつつ,その分野の諸問題に対する普遍的な理論・技術を構築する学問であるということができる。これまでにも,学問の壁を越えた“情報”の普遍的な扱い方が学問研究・技術開発に貢献してきているが,さらにこのような研究を通じてあらたな学問分野を創生することが期待されている。                   

 こうして,さまざまな学問分野との接点で生まれる先端計算機科学の研究は“冒険的”な性格をもっており,基盤的な分野,総合的な分野の確固たる安定した研究の上に成立するものである。たとえば,伝統的な計算機科学分野の研究と脳科学,分子生物学などの研究からあらたな情報処理の形態が創出されるものと考えられる。また,さまざまな学問分野における多様な情報を蓄積するためのデータベース技術も,学問領域を越えたところに発展するものである。これまでも,計算機科学は基本的な成立形態において他の学問分野や社会・産業と密接に連係しつつ成熟してきており,情報革命を支える学問として幅広く研究が進められている。

 計算機科学の研究体系は,基盤計算機科学分野とそれらの理論・抽象化・設計のアプローチを2次元に配置し,その上に横断的概念による総合計算機科学分野の研究課題を配した3次元的な形で表現することができる。基盤計算機科学のさらなる成熟は,総合計算機科学の発展とあいまって計算機科学の進歩につながるものである。さらに,このように3次元に配置された分野と他の学問分野との接点から創生される先端計算機科学の研究は,計算機科学分野全般に限らず,あらたな学問の芽となり,学問研究に刺激を与えるものであるといえる。                 

 

 

4.計算機科学の成果

 

 計算機科学はこれまでにその学問の成立に係わる成果として,数千年にわたって数学のひとつの課題であり続けてきた“計算”を科学・工学に適用できる形で提供してきた。また,計算によって情報を処理する手法を開発し,種々の問題解決の道を開いてきた。その過程においては,電子工学の成果に基づく計算機システムの構築,アルゴリズムを表現するための言語の設計・処理系の開発などの成果が大きな役割を果たしてきた。           

 学問の各分野における“計算的”手法の重要性は,これまでもそれぞれの分野において“計算○○学”という○○学の副分野として発展してきたことにもうかがい知ることができる。それらは,計算機科学の成果を利用してあらたな研究の道を拓いたものであるが,今後もこれまで以上に計算機科学に期待されることは多い。各分野で用いられるプログラミング言語とその処理系(コンパイラ)に関する技術は,理論・抽象化・設計から実現にいたる基盤計算機科学分野の大きな成果である。また,情報の可視化技術は大規模情報の取扱い方を追究する総合計算機科学の成果の応用であるといえる。このように,計算機科学の発展的な拡大とともに,科学・工学の研究を支援する基礎的学問としての計算機科学の役割が大きくなり,重要性はいっそう増大している。                             

 計算機科学の分野における成果は,その学問の特性として,つねに工学的技術に反映されてきた。あらたな産業が生まれ,それを通じて社会における情報処理システムが作られ,成熟した社会システムのなかのいたるところに計算機科学の具現された成果を見ることができる。

 こうしたなかで,我が国においては

 ● パラメトロン計算機( 後藤英一・高橋秀俊)

 ● TAC 計算機( 中沢喜三郎)

 ● ALGOL N 言語( 島内剛一他)

 ● 部分計算法( 二村良彦)

 ● 新世代コンピュータ( 渕一博他)

など,独創的な成果をあげ,国際的にも計算機科学の発展に寄与してきた。また,我が国の計算機科学の研究成果は産業界における計算機技術の発展に活かされ,生活に密着したオンラインシステム技術など,世界にさきがけて成熟した情報化を推進する基盤を作ってきた実績がある。

 

 

5.諸外国における国立計算機科学研究所の例

 

 諸外国においては,計算機科学の学問としての重要性の認識のもとで,国立の研究所が設立されて大きな成果をあげてきている。代表的な機関には

 ● アメリカ

  - NSF によるスーパーコンピュータセンター5機関とシステム   

   研究センター5機関,SEI (Software Engineering    

   Institute ),など

 ● フランス

  - INRIA (Institut National de Recherche en Informat     

   ique et en Automatique)

 ● ドイツ

  - GMD (Forschungszentrum Informationstechnik GmbH)     

 ● オランダ

  - CWI (Centrum voor Wiskunde en Informatica)

などがある。

 これらの国立研究所の規模・運営形態に違いはあるが,たとえば,フランスのINRIA では常勤 300名・客員 660名の研究者,ドイツのGMD では研究者 620名の研究者を擁し,計算機科学のさまざまな分野の研究を推進している。

 

 

6.国立計算機科学高等研究所の組織

 

 計算機科学高等研究所においては,基盤計算機科学の各分野を核として総合計算機科学の研究を推進する恒常的体制と,これらの分野と協調して学際的な先端計算機科学のプロジェクトを実施するための流動的体制を併存させる。               

 研究所における部門は基盤計算機科学,総合計算機科学,および先端計算機科学の分野をあてるものとする。基盤計算機科学11分野に対してそれぞれ8名の研究員,総合計算機科学6分野にそれぞれ10名の研究員を常勤研究員として配置する。さらに,先端計算機科学の学際的研究を推進するために常勤研究員12名を中心に,客員研究員40名を配して4分野でプロジェクト研究を実施する体制をとる。

 研究所は,全体として 160名の常勤研究員と40名の客員研究員で組織する。

 

● 基盤計算機科学研究部門 11小部門に各8名の常勤研究員   

   

  1. 情報学基礎

  2. 算法設計

  3. 計算モデル

  4. 計算機構

  5. 計算情報処理

  6. ソフトウェア機構

  7. ソフトウェア設計

  8. 情報ベース

  9. 知識情報処理

  10. 多元情報処理

  11. 情報ネットワーク

 

● 総合計算機科学研究部門 6小部門に各10名の常勤研究員   

   

  1. 大規模情報処理

  2. 大規模分散並列計算

  3. 巨大ソフトウェアシステム

  4. 大規模非均質情報処理

  5. 高信頼計算システム

  6. 実世界計算システム

                                 

● 先端計算機科学研究客員部門 4小部門に各3名の常勤研究員と

  各10名の客員研究員によりプロジェクト研究を行う。