日本学術会議第125回総会 勧告等に関する会長談話


平成9年5月29日

日本学術会議会長

伊 藤 正 男

 日本学術会議は、5月28、29日の2日間にわたり、今第16期最後の第125回総会を開催し、次の勧告、要望、決議を採択した。

 「計算機科学研究の推進について」の勧告は、近年、学術研究全般の基礎としての役割が、著しく増大している計算機科学(コンピュ−タサイエンス)を推進するため、我が国における研究活動の中核となり、有為な人材を養成する国立の研究所を設立し、国際的にも国力にふさわしい貢献をしようとするものである。

 「学術団体の支援について」の要望は、創造的な学術研究活動の基盤である学術諸団体がその機能を十分に発揮出来るよう、多方面からの支援の必要性を説明し、行政上の支援が得られるよう、求めるものである。

 「総会決議」は、今期会員がその活動に当たって特に留意した事項を挙げ、将来計画委員会が本総会に提言した機構、制度の刷新が進み、次期以降の活動がさらに発展するようにとの今期会員の願いを述べたものである。

 翻ってみるに、平成6年7月に始まる第16期は、21世紀を目指して人類の活動があらゆる次元において世界的に大きな変革を遂げつつある時期に遭遇し、本会議としても大いに活動の意義のある3年間であった。関係各方面のご支援に感謝し、今後とも、本会議の活動に対して深い理解を賜るようお願いしたい。                 

 添付資料

  1 第125回総会決議

  2 第125回総会への提言

  3 日本学術会議の果たすべき役割について


第125回総会決議

                                        

 平成6年7月に始まる本会議第16期の終了を間近に控え、              

 21世紀を目前にする世界的な変化の時に当たり、人文科学、社会科学、自然科学の調和のとれた発達とその統合こそが、我が国の発展を強く推進する原動力となり、世界文明の進歩と人類の福祉と共生に積極的に寄与する道を拓くことに思いを新たにし、              

 次の世代への先行投資としての政府資金による学術研究の強力な推進と教育の充実について、政界、官界、産業界、国民一般の深い理解と強い支援を願い、それに値するための研究者自身の積極的な努力を要請し、

 行政においては、科学技術基本計画の適切で速やかな実施を通じて、本会議の勧告する脳科学、計算機科学等の先端科学の推進を含む高度学術研究体制を早期に確立すべく、省庁間の密接な協力が行われることを切望し、

 我が国の数多くの学協会を強く支援し、その活動に協力する一方、広く世界の学術団体と密接な協力関係を保ち、アジア学術会議を確立するなど、学術の次元における国際的交流活動を強化することの重要性を確認し、                                         

 本会議が、将来計画委員会の提言に沿ってその機構、制度の刷新と情報機能の向上を図り、我が国の科学者の意見を集約、代表し、行政、産業、国民生活にこれを速やかに反映させる機能を、次期以降引き続き十分に発揮することを期待する。

  以上決議する。                              

平成9年5月29日

日本学術会議

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第125回総会への提言

                                         

平成9年5月

将来計画委員会

                                         

 近年、社会に対する学術の重要性の増大に伴い、我が国の科学者の意見を集約、代表する日本学術会議の役割はますます重要性を加えている。しかしその一方、学術の急速な発展、動的なその研究体制の変化、多様化する社会との関わり等の多くの要因により、日本学術会議の在り方を見直し、その存在意義を改めて問い直すことが強く求められている。 

 本委員会は、日本学術会議の役割と、それを果たすための審議、研究連絡の機能や、会員の推薦に関わる事項について見直し、その結果を添付の報告書にまとめた。ここでは、報告書で指摘した問題を解決するための行動指針を提案する。これらの問題点については既に関連委員会で改善に向けて取り組まれているものが少なくないが、本委員会は、今期中に実現可能なものについては速やかな対応を期待するとともに、第17期の当初から実行すべき課題や第17期においてなお検討を必要とする課題については、次期会員に適切に申し送られ、速やかに実現されることを期待するものである。

 

1 日本学術会議の使命                              

 日本学術会議は、内閣総理大臣が所轄する審議機関として行政の中に位置付けられているが、一方、国内外に対する我が国の科学者を代表する機関として、独立して職務を行うことを保障されている。職務の内容は科学の重要事項についての審議と、科学を発展させるための研究連絡である。審議の目的は、我が国の学術、科学技術の発展のための政策形成に寄与するのと同時に、我が国の政策一般の有効な形成、実施のために、また産業の発展、国民生活の向上のために必要な科学的知見を提示することである。

 しかしながら、半世紀に近く遡るその創立時とは異なり、個々の問題については、各省庁にそれぞれ審議会が設けられ、また科学技術に関する調整機構として科学技術会議が置かれ、種々の審議機能を分担している現在、日本学術会議の活動もまた独自のものでなければならない。本委員会はそのような意味において、次の三つの方向の活動が重要と考える。 

1. 省庁間の壁にとらわれず、政府全体としての科学政策について、総合的な立場から 審議し、一般性、普遍性をもって対応すること。第16期においては、高度研究体制の早期確立を要望し、科学技術基本計画に研究者の意見が折り込まれるよう努力した他、脳科学推進を政府に勧告する等の活動を行った。

2. 1200余の登録学協会を基盤として我が国の科学者の意見を集約し代表すること。学問分野が細かく専門分化する一方、新たな境界領域が急速に興隆する今日、日本学術会議は180の研究連絡委員会を通じて我が国諸学協会の動向を常に把握し、その活動を促進している。

3. 国際的な学術において我が国を代表すること。現在47の国際学術団体に加入し、代表を送るなど、年間100件程度の海外派遣を行う他、二国間交流事業により国外の学術団体との交流を図り、また15期以来毎年アジア学術会議を開催するなど、学術における国際交流を行っている。

 

 これらの活動に当たっては、科学者の内発的な要請に基づいて課題を選択、創出し、科学者の現場に密接した活動を行うことが必要である。科学の重要事項に関する科学者の意見を集約し、科学の動向に関する明晰な報告書を発表し、斬新なアイデアによる新しい計画を提案して、行政、産業及び国民生活にインパクトを与えることが重要である。このことは、学術、科学技術が寄与すべき多くの社会問題が発生しつつある今日、特に重要である。

 

2 機構、制度について

 現行の7部制が一種の縦割り構造として働くことのないよう配慮し、日本学術会議としての一体感を醸成することが重要である。このため、部は会員のいわば本籍とし、各部横断的な活動を促進するよう、機構、制度の運用に工夫を凝らすことが特に必要である。このことを始め、下記の各項についての改善を求めたい。

 

○ 報告書に述べる特別研究委員会および研究連絡委員会連合の創設について、さらに検討されたい。                                   

○ 常置委員会の審議事項については、各期の始めにこれを設定するが、期の間においても日本学術会議内外の要請により柔軟に設定し直すことが必要である。常置委員会の委員構成は、現行のように各部会員のバランスに重点を置く構成ではなく、審議内容に即して各分科会の審議内容の違いを踏まえた適切な委員構成とするよう、17期からの実現を図られたい。

○ 特別委員会の設置については、特別委員会を全て期の当初に発足させ、任期を一律に3年としている現行方式を改め、先ず各部一名で準備会を開くなどの工夫に努めることが必要である。なお、期の半ばにおいて使命を達成したり、あるいは活動の低下した場合はこれを終了し、新たな特別委員会を発足させることを推奨する。

○ 常置委員会、特別委員会の運営については、各委員会が総会の度ごとに審議経過にとどまらず審議の内容、問題点にまで踏み込んで報告を行い、各期に少なくとも一回は対外報告すること、特別委員会においては少なくとも各期1回の公開シンポジウム開催を行うことを求めたい。

○ 研究連絡委員会については、今期における第1常置委員会による見直し作業の結果を日本学術会議全体として次期へ申し送り、次期における検討の継続と実現を期待する。なお、研究連絡委員会活動の拡充のための財政措置については、活動経費の拡充にむけて財務委員会で引き続き検討し、次年度以降の予算の確保に努める。

○ 毎月開催される運営審議会の委員構成については、第16期の方式は有効であるが、一般会員との情報ギャップを縮小する観点から各部幹事、特別委員会委員長を構成員に加える案についても、17期において、特別委員会の委員構成及び運営の改善状況を踏まえて更に検討することが望まれる。

○ 現在運営審議会附置広報委員会の下にある地区会議の組織を、運営審議会附置委員会として活動の充実を図ることについて、広報委員会においてなお検討の上、17期においてその実現を目指されたい。

○ 外部の諸情勢に応じて、会長が緊急対応できるような支援体制を作り、各種委員会の幹事会の位置付けを運営細則で明確にして迅速に対応する体制を整えることを推奨する。 

                                         

3 会員について

 日本学術会議を構成するのは、210名の会員である。会員は栄誉のための職ではなく、我が国の科学者の代表としての職責を果たすべく、絶え間ない献身を求められることを、会員推薦に当たり確認することが必要である。会員は登録学術研究団体より推薦された候補の中から研究連絡委員会を通して選出されるが、所属学会及び研究連絡委員会の利益代表であってはならず、常に日本学術会議の使命を念頭において行動せねばならない。会員に関して考慮すべき具体的な事項は次の如くである。

 

○ 近年における登録学術研究団体数の急速な増加や学問領域の変化に対して、柔軟な対応が必要である。登録学術研究団体との情報交換や活動の相互支援など、関係を緊密に保たねばならない。登録学術研究団体と日本学術会議との協力体制を促進し、会員推薦管理会と日本学術会議の間の意思の疎通を図るため、運営審議会附置関連研究連絡委員会等指定委員会の活動を強化することが望ましい。

○ 学問領域が激しく変化する中、科学者の資格要件を明確化することが求められている。本委員会報告に示す科学者の基準を各部において検討し、可及的速やかに結論を得ることを期待する。

○ 会員が関東関西に集中し、地方在住、在勤会員の著しい減少が起こっているが、研究連絡委員会見直しの中で地方の問題を対象とする研連を各部に1つずつ置くよう努め、また研究連絡委員会の委員構成において地域分布の適正化を図ることが必要である。

○ 女性会員の数が少ない現状を改善する第一歩として、女性の研究連絡委員会委員の拡充に積極的に取り組むことが必要である。17期においては180研連に少なくとも1名の女性委員が選出されることを推奨することとして、研連発足のための手引き資料にこのことを明示するよう求めたい。

                                         

4 その他の活動上の留意点

 上記のほか、日本学術会議の審議、研究連絡機能を十分に発揮し、その活動の充実を図るため、次の諸点に留意し、改善に努めることを期待したい。

 

○ 科学技術基本計画の進展状況を見守り、その正しい方向付けに努力する。評価システムなど、その提案事項の実現に注意を払う。17期においてこの問題について特別委員会を設けることも考えられる。

○ 情報化推進のため、情報ネットワークの構築に向けて、日本学術会議における端末機器の導入、ホームページの開設などが急速に進展しつつあるが、引き続きこれらの情報インフラの充実に努め、併せて、図書館機能の充実、日本学術会議活動関連資料のデータベース化に取り組むとともに、会員、研連委員、学協会等との情報ネットワークの構築の作業を速やかに実施する。

○ 日本学術会議50年史編集準備については、先に発足した編集準備委員会の審議をさらに深め、検討の成果を適切に次期に引き継ぐ。

○ 月刊「学術の動向」の内容を会員の編集協力により一層充実し、会員、研連委員、学協会を通じて普及に努める。

○ 財務委員会及び事務局は、日本学術会議の審議機関としての機能を有効に発揮するために必要不可欠な予算の内容、規模等を策定の上、次年度以降の予算要求に反映させる。 

○ 国際交流、国際対応の実を挙げ、政治、経済とは異なる領域の国際活動を積極的に展開する。国際学術団体への加入については、第6及び第7常置委員会において、登録団体の実情を常に把握し、50を超える未加入団体への対応について検討を行う。

○ アジア・大洋州地区の地域的団体への対応を促進し、アジア共通の研究基金の設置等の新たな活動の可能性を開拓されたい。アジア学術会議の恒久組織化に向けてのアジア学術会議実行委員会の努力を支持し、本年7月に予定されている小委員会の成果を17期に引き継ぎ、アジア学術会議を可及的速やかに発足させるよう期待する。

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日本学術会議の果たすべき役割について

 

平成9年5月29日

日本学術会議運営審議会

   

 日本学術会議第16期の活動期間も残りわずかとなった。この3年間の活動の軌跡を振り返るとともに、今後、日本学術会議が果たすべき役割について、当運営審議会としての基本的考え方を示すこととしたい。     

 日本学術会議はこの3年間、我が国の科学者を代表する国の審議機関として、

・高度研究体制の早期確立 

・科学技術政策における基本理念の再設定

・分散型メガサイエンスとしての脳科学研究の推進 

・研究開発費のGDP比率の欧米並みへのキャッチアップ 

・計算機科学の飛躍的発展     

・アジアにおける学術の発展支援 

・若手研究者の養成確保

・学術団体の支援強化

等新機軸を始めとする、学術上の重要課題を指摘・提唱してきた。

 また、研究連絡活動として、

1200余の学会を基盤とする180の研究連絡委員会の場等を通じ、403回のシンポジウムの開催、38件の対外報告を行い、科学者の研究・意見の集約を図り、科学の向上・啓蒙に力を尽くしてきた。                    

 さらに、急速に国際化が進展する学術研究の分野において、国際的学術研究団体の有力メンバーとして着実に活動するとともに、国際的科学研究計画への研究参加・協力、アジア学術会議を始めとする各種国際会議の開催等を通じ、世界の科学水準の維持向上に寄与してきた。

 一方、社会に眼を向けると、21世紀を目前に控える今日、世界は激変の渦中にあり、我が国社会も激しい変容の中で、既存の各制度・各システムは壁に突き当たり、大きな改変を迫られている。

 学術は、 歴史上、このような時代を切り拓くための知的突破力の源泉として、その役割を果たしてきており、今日においてその重要性はますます増大している。

 日本学術会議は、まさにこの面での国民の期待に応えなければならない。                                                  

 日本学術会議は、このような時期に当たり、

 内閣総理大臣が直接所轄し、政府に対する勧告権を持つ審議機関として、

 普遍的・一般的真理としての科学の役割がますます高まってきていること、

 21世紀においてどのような学術が求められているかを探求すること、

 科学技術の急速な発展に伴い、人間、社会との調和が必要であること、         

等を認識し、自らの存在意義を改めて問い直しつつ、今、なすべきことを着実に実行していくことが求められている。                                                         

 今後とも、残された期間その責務を果たすべきことを決意するとともに、次期第17期においても、新会員がその職務を自覚し、絶え間ない献身を行うことにより、その使命を遺憾無く果たされることを期待したい。

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